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炭坑から観光へ!田川は変わりようバイ
2020.04.29 | fukuoka
「へいちく」、沿線住民が親しみを込めて呼ぶ「平成筑豊鉄道」の略称です。その名の通り、元号が「昭和」から「平成」へと変わった1989年の4月、沿線自治体等の出資により、第三セクターの鉄道会社として生まれました。そして平成元年10月、国鉄民営化により、昭和62年に設立されたJR九州から路線を継承して、運行がスタートしました。
実は、私も平成元年から社会人生活をスタートしました。「へいちく」は、いわば同期として、ずっと共に故郷のために頑張りたい、そしてずっと応援し続けたい、特別な存在でもあります。
かつて「炭都(たんと)」と呼ばれた田川は、日本の採炭量の半分以上を占めていた「筑豊炭田」の中心地域でした。この地域の良質な石炭があったからこそ、国内鉄鋼生産量の半分を担い、日本の近代化を支えた「八幡製鉄所」が北九州市に作られたのです。
かつて筑豊の石炭は、遠賀川等の水運で北九州市の若松港等へ運ばれていましたが、明治中期から鉄道が水運に取って代わります。
炭坑から網目のように鉄道が敷設され、大量の石炭が八幡製鉄所や港などに運搬されるようになっていきました。「へいちく」が継承した伊田線・田川線・糸田線の3線も、この頃、炭坑会社によって敷設されました。
この炭坑全盛時に開業した「へいちく」沿線の鉄道施設の特徴は、まず、田舎の駅なのにホームが異常に長いこと。石炭を満載した貨車が何十輌も、蒸気機関車に牽引されて運搬されていたためです。
二つ目は、複線区間が多いこと。これも長い貨車の列を効率よく運行させるために施された工夫です。後述しますが、この複線区間が多いことこそが「へいちく」の最も大きな財産かもしれません。
三つ目は、複線化を視野に入れた工事が行われたこと。代表的なのは、田川郡赤村にあるアーチ橋「内田三連橋梁」と九州最古の鉄道トンネル「第二石坂トンネル」です。「内田三連橋梁」は、複線化の際の橋梁拡幅を考慮したレンガの積み方が採用されています。みやこ町と赤村との間にある「第二石坂トンネル」は、複線化するために、線路が2本入る幅で掘られています。共に明治28年供用開始、どちらも「国登録有形文化財」に指定されています。
また、時を同じくして開業した「油須原(ゆすばる)駅(赤村)」は、九州最古の駅舎ともいわれています。レトロな駅舎を活かし、有名ドラマの撮影場所としても知られています。
沿線では、素敵な車窓の景色もお楽しみいただけます。炭坑節で「あんまり煙突が高いので」と謳われた「二本煙突」、石灰石の採掘により水平に切り取られた山「香春岳」、のどかな田園風景、そして田んぼの向こうに見える福智山系etc。
田川の素敵な風景、特産品などを地域外の皆さんに知ってらいたいと考え、以前、私たちが企画したのが「里山列車紀行 ひとつ星」です。「へいちく」の車両を貸し切って、車内では、特製弁当と沿線の酒蔵の日本酒、そして景色などを楽しんでいただき、停車駅では、特産品のお買い物、地元太鼓グループの演奏などを堪能してもらう企画です。平成30年1月から半年間で、1千名近い方が参加され、大好評のツアーとなりました。この企画が成功したのも、前述したように駅のホームが長いこと、そして複線区間が多いことで、駅での停車時間が長く取れ、停車駅で物販や演奏などが、実施出来たことが大きな要因でした。ツアー参加者と地域の方とのコミュニケーションがより蜜となったからです。
そしていよいよ、昨年の3月、「へいちく」の命運を握るプロジェクト「ことこと列車」の運行がスタートしました。
あの「ななつ星」等なだたる観光列車をデザインした「水戸岡 鋭二 氏」デザインの車両で、有名シェフ監修によるフレンチのフルコースが堪能できる、まさに走る高級レストランです。そしてこの「ことこと列車」にも複線区間の多さが生きています。複線区間の多さに加え、運行本数が少ない(笑)ことによって、後続の車両のことを気にすることなく、時速20キロ、本当にゆっくり、ことこと走ります。ゆっくり走ることで、お客様はゆったりと食事や風景を楽しめ、そしてスタッフも車内での給仕がしやすくなります。そんな素敵な雰囲気で走る列車ですから、人気が出ない訳がありません。スタート以降、ほぼ満席での催行が続いています。
明治から昭和、平成、そして令和と時代は変わりましたが、鉄道は、今も変わらず田川を、筑豊を、沿線を駆け抜けています。炭坑から石炭をいかに早く、大量に運ぶかを考え敷かれた鉄道。それが今では、少人数の特別なお客様にゆっくり、ゆったりとした時間を提供する観光へと。
「へいちく」は、田川は変わろうとしています。
皆さん、いつかこの田川にゆったりとした贅沢な時間を過ごしに来ませんか?
素敵な景色、美味しい食べ物、そして飛び切りの厚い人情をご用意してお待ちしております。
文:金子和智